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アラスカの旅、ニコルさんの講演を聞いて考えたこと(1) 西郡佳代子

北に憧れがあった。

国内旅行のここ最近の行き先は、北海道、東北、信州ばかり。まだ働いていた頃、憧れがつのり札幌支社の総務部長に転勤を直訴した程だ。

北好きの私の中でも別格でどうしても行ってみたい所がアラスカだった。The Last Frontier。アラスカを表現する時によく使われる言葉。手つかずの自然が最後に残された場所。それはどんな所だろう。早く行かないと、もうその自然が破壊されてしまうかもしれない。すぐにでも行きたかったが、休みが取れなかったり、「アラスカ」とちょっと表記は似ている「アフリカ」という全く違う地へ行ったりと紆余曲折があり、なかなかその夢は実現しなかった。しかし、遂に今年の夏、念願のアラスカ行きが実現した。仕事が忙しい夫の希望により、キャンプとかではなくいわゆる「観光旅行」になってしまったのが少し残念だが、それでもアラスカの大きさを感じることの出来る旅だった。

今回の行き先はアラスカ州都のジュノーの近くにあるグレーシャーベイ国立公園と、マッキンリー山の麓にあるデナリ国立公園の2か所。まず、ジュノーからグレーシャーベイ国立公園の玄関口、ガスティバスまで行く途中、空からその風景を見た時に圧倒された。ジュノーからガスティバスまでの飛行時間はたったの13分。13分程度なら道路で行っても・・・と思うが、森があまりに深く、空か海からかしかアプローチできないのだ。上から見る初めてのアラスカは行けども行けども山と針葉樹の森だった。人が住んでいる様子は海岸沿いにちょっと見ることが出来る位で、大きな道路もなく、あとは大自然そのままだった。そして、海は鏡の様で、飛行機の上からでもクラゲの様なものがはっきりと見える程、澄んだ水をたたえていた。

私には、今回の旅で特に出逢いたい動物がいた。グリズリー、ザトウクジラ、カリブー、ワタリガラス、そしてムース。アラスカ到着第一日目、着いたその日の夕方、早速自然からの贈り物があった。ロッジの玄関から出て少し散歩をしようとしたら、熊、ブラックベアがロッジのすぐ側に出てきたのだ。グリズリーではなかったが、着いていきなり熊に出会えるなんて、何てラッキーだったのだろうか。しかもその熊は、森に食べ物が無く人里まで下りて来た訳ではなく、ましてや人間が出す残飯を漁りに来た訳ではなく、そこが熊のテリトリーで、来るべき冬に備えて目の前にあるベリーをただ食べるために来たのである。当然我々に見向きなどせず、ただ夢中でベリーをほおばり、しばらくすると満足したのかまた森の奥に消えていったのだった。その姿を見た時に、ありきたりだが、私たち人間の方が侵入者で、彼等の生活の場に足を踏み入れさせてもらっているのだという事を痛感させられた。動物園やサファリパークで見る熊とは違う野生の熊。私は熊達の国に来たのだと、とても謙虚な気持ちになった。

着いて早々熊に出会ったおかげで、レンジャーからはこの国立公園内でここ30年、熊と人間のトラブルが起こったことは1度もないと言われていたのだが、次の日にロッジの周りの苔むした針葉樹の森をトレッキングする時、そのひとときもとても楽しみにしていたにも関わらず、いつ熊が出てくるか分からない恐怖で、ゆっくり森の中を楽しむことができなかったのが非常に残念だった。そして、そんな自分がちょっと情けなかった。

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