今回は初日が雨である。それも時々豪雨である。
森に着いても状況に変化なし。
さて本日の見学はいったいどうなるだろうかと皆が思っていた所にニコル兄がレインコートに長靴、レインハットの完全武装でスキップを踏んで現れた。「俺は、雨の国の人間だからこんなのぜんぜん平気よ。だけどデリケートな人が居たら、お前じゃないよ、女性の事ね、この小屋で休んでたらいいよ。」「デリケートな男はどうします?」「生きて無くていいんじゃないかな。」と言って片目をつぶった。
結局一人の脱落者も無く見学は始まり、次第に雨も小雨になって余り気にならなくなってきた。雨も森の1日であることに代わりが無い。歩くたびにカエルがぴょんぴょんとび出してくる。松木さんが「雨んときは雨ん時で喜ぶのが居るんだ。まずカエルだ、ピョコピョコしてんだろう。木だって嬉しいんだ、顔つきが違うだろう、そうやって見ていくといろんなことが分かるんだ。」というふうに森の話が進んでゆく。授業では居眠りの常習だった連中が雨に打たれながら目を輝かして聞いている。
昨年松木さんの最後の大仕事と言われる不毛の湿地帯の土木工事が行われ土壌改良と生物がすむための水路が作られた。当然その一帯は土がむき出しに露出していた。ザーッと掘り返された土の色。それが今年は見事に緑に埋め尽くされている。今回ほど森の変化を感じたことは無い。弱弱しかった木々は切り取られ新しい苗木が植えられている。そうして少しづつ森は健康を取り戻し活力にあふれている。いろいろな所で森の活性化は図られて森の顔も変化している。森もうつろうのだ。生命はうつろうから生き生きしていられるのだ。森はうつろい、そして人もうつろう。
森から帰って志ん弥師匠の前座にマネージャーの森田さんがお師匠さんと三味線を弾いた。本舗初公開である。これには訳がある。実はいつもお世話になっている会場の竜の子のご主人仲原英治さんが余命半年の宣告を医者から受けたのである。それでかねてから英治さんが森田さんの三味線を聞きたがっていたので意を決して最後にせめて三味線をとのことであったのだ。ところが薬と療法が劇的に効いてなんと直ったのである。それを森田さんから聞いたのが会の3日前である。「なんかさあ、あたし、出たがりのおばさんみたいじゃない、これじゃ。」とのことではあったが、まあ、大葬の礼からいきなり神田祭になったようなものだけど本当に嬉しいはぷにんぐであった。寅さんではないが「いいかい、みんな、この席じゃあ、お別れとか、最後とか、バイバイとか言っちゃあいけないよ。」と緘口令を牽いていたのは解除になった。
雨の森は人の心をギュット掴むらしい。食事の後の自己紹介はそれぞれが自分の言葉で自分を語り、淡々とそして熱く時間が過ぎた。会を始めて4年目にしてたどり着いた至高の時間であったと思う。
今回初めて松木さんご夫妻が志ん弥兄の落語を聞きに来てくれた。「松木さんも落語聞いて笑うんだ。」と言ったら「俺だって可笑しけりゃ笑うよ。」だそうだ。
ハルミさんのギター演奏があってニコプロの合唱とマサキの独演もあった。良かったーっと思った、涙が出てきた。
次の日のニコルさんの講演会は「イヌイットとC W ニコル」である。ニコルさんの原点を話していただいた。いつも感じるのは本を読んでその話は知っていると思っても、直接兄本人の口から聞くと新しい発見と感動が無数にあるのである。そういうこともあって今回お話をテープに取らせていただいて会に参加した西郡さんにテープ起こしして内容も纏めて頂いた。さすがに究極のOLを自任されるだけあって素晴らしい出来であった。今回からこのお話も私のホームページで発表させていただくことにした。
以前から私はニコル兄に対する評価が正当になされてないことを本当に残念に悔しく思っている。作家としてのニコル兄は代表作である「勇魚」が絶版になっているなど憤怒にたえない。今回発表された「特務艦隊」は「勇魚」の4部作の完結編であるにもかかわらず、その最初の本が無いのはあまりに悲しい。またコマーシャルでハムやアウトドアのみが先行する印象を払拭し何人かの人でもこの兄本人の生の声の記録を読むことで本当の理解の一助になればと思っている。
この10月28日にニコル兄は大英帝国から外国人に与えられる最高の栄誉、大英勲章を授与された。生まれ故国から最高の栄誉を戴いたニコル兄の喜びはいかばかりかとお察しする。その150人ほどの参列者の中から10人のみが最前列の貴賓席の椅子に腰掛けられるのだが、その椅子に義兄の3つ揃いを着た松木さんと鯨取りの砲手の方が腰掛けていた。微笑ましいと同時に胸が熱くなった。
ある日、アファンの会に参加していた尾立が訪ねてきた。「いやあ、ニコルさんのお話の後にニコルさんのとこに行って、素晴らしいお話ありがとうございましたって言ったんですよ。そしたらニコルさんが『だって僕たちは家族だろ』っておっしゃったんですよ!もう、わかります?感激ですよ、泣いちゃいそうで言葉が出ませんでした。」
次回が楽しみである。
古山浩一
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