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C.W.ニコル講演「イヌイットと私」(9)
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???さん:シャーマンになれる人っていうのはどういう人ですか?
森田さん:修行の道があるんです。すごい厳しい。ここで何日どうしろというのがあって、最後に到達する場所があるんですけど、苦難の場所を通り抜けると、最後の所に大きな石があるんですって。その石には、何千年もシャーマンになろうとして修行してきた人達が、最後の仕上げで、何日間もずっとその石を抱いて力を入れてなくちゃいけないから、その指の跡がついてるんです。
ニコルさん:僕は3年続けて、夏だけ修行の道をやってましたね。そこまで入ったんですよ。満潮、干潮の差が12mもあって、入り口の両側は崖で幅は50m位しかない。その入り口で僕はキャンプしたんですね。小さな島が入り口を隠してるんですよ。その島の周りは毎日2回渦が巻くんです。そこにカヤックで入らなくちゃ行けない。僕は、1週間びびっちゃって。でも近付けないんですよ、崖が一杯あって。ゴーッってすごい音がするんですよね。だから満潮、干潮の時間を計って、水があまり動いてない時に入ればいいと思ったんですよ。でも、入り口は細くて湾は広いから、中と外で水が出たり入ったりする時間が違うんですよ。だから、僕が入った時には2m以上の白波がばーっとあった。近付いたら引っ張られて、逆には戻れないんです。とにかく漕ぐしかない。何回も沈したんです。ローリングは世界一下手です。でも出来た。さぁーと入ったら、もうびっしょびしょで、寒くてしょうがないんですね。雨の日だったから焚火を炊いて、ちょっと暖めて、石を見ようと。それに言われたんですよね。本当にやるなら、やるしかない。途中で止めたら、必ず1年以内に死にますよと。そういうことを信じるか信じないかというより、僕はそこまで行って、もう寒くて疲れてお腹すいて、「本当かな?」と見たら、本当に指の跡がいくつもあったんです。それでもう、ははーって頭が下がって、違う時にやろうと。
森田さん:一時期ニコルも色々考える時期があって、3年続けて北極に帰ったんですよ。でも、やっぱり帰ってきた時に、全然違うんですよ。原稿がもの凄く短くなった。余分なものを全部捨てて、骨格だけ出す様な原稿になったんです。それともの凄く疲れると。一人一人の心の中が、何を考えているかじゃなくて、この人は悩みがあるとか、波動みたいなものがもの凄く見えちゃうと。それで、だんだん1ヶ月位居ると麻痺してきて、元に戻る。その1ヶ月がもの凄く辛くて、人に会うのが億劫だと。そういうのがすごく印象的。
荒木さん:イヌイットの方々が人と接する上で、一番大切にしてることは何だと感じますか?
ニコルさん:伝統的なイヌイットの生活をしてる人々と、近代的な人々では随分違うんですよね。伝統的な人々は何でも分け合うんですよ。それから、子供達を叩いたり、怒鳴ったりはしなかった。子供が例えば、よちよちの子供がナイフを持ち出しても、「危ない!危ない!」って言わないんですね。自分で分かる様になるんですね。何か切ろうとすると、子供の手の上にこうやって切るのよとか。それから動物を殺して、感謝してました。色んなお祈りとかそういうの、あったね。日本も、明治時代と今の日本人が同じ日本人かなと思う位変わってると思うね。だから一緒かな。
2005年10月9日
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