町工場二階空目薬工房

KOICHI FURUYAMA


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C.W.ニコル講演「捕鯨調査と庄司船長の思い出」(4)

大昔、北極は全部深い氷に覆われていました。その氷の残りはグリーンランドやデボン島にあります。でも、一万年位かけてその氷は融けましたから、陸が上がってるんですね。だから、raised beach、上がった浜がいくつもあるんです。つまり今の浜に行って人間の跡を探しても無いんです。先生がそのraised beachを探している間に、僕はちょっと探検をしたんです。そこには冬用の食べ物が置いてあったんですよ。熊が壊せないドラム缶に僕らが冬に置いておいたんです。でも美味しいものないの。だから、僕は鉄砲背負って美味しいものを獲ろうと思って、先生と反対側に行ったの。

そうしたら、もうもの凄いことを発見した。トゥーリー文化(Thule Culture)。トゥーリーはグリーンランドで発見されたもので、今のイヌイットの文化はこのトゥーリー文化の流れを受けています。この文化には優れた技術が色々有ったの。一つは犬ぞり。前の文化の人達はソリが無かったの。犬は居たけど、犬に荷物を背負わせて歩かせたの。それからカヤックがあったんです。それからイグルー。それに銛は独特だったんですね。銛は3つに分かれていて、一番先はだいたい強いセイウチの牙。そこに黒曜石が挟んである。そして、銛先が獲物に刺さってから引っ張ると横になって抜けない仕組みになってたんです。銛先には小さなくぼみがあって、トナカイの角やセイウチのメスの細い牙が入ってました。そして手で持つ木の部分のところにも細工がしてありました。大きな動物に銛を刺すと銛はばらばらになる。ばらばらになるけど紐で繋がっているんです。どういう事か。

大事な木は折れないんです。何回も何回もこの道具は使える。だからハイテクですね。前の文化にはこれがなかったから、大きな動物がなかなか獲れなかったんです。だからその人達は天気が悪くなったりすると、餓死したりしていました。とにかく、僕が見つけたのは村の跡だったんです。普通のイヌイットのトゥーリー族の村は5〜6軒の家だけ。1軒にだいたいハンターが1人。だからハンターが5〜6人居ればどうにか生活が出来た。でも僕が見つけた村は、家が40〜50軒位あったんですよ。この家はだいたい10m位の卵型の作りで、石が1m位積んであったんですね。地面には柔らかい草を一杯敷いて、その上に動物の皮を敷く。入り口は必ず海に面していて、人はハイハイして入ったんですね。

屋根はセミクジラのあご骨で出来てました。それが梁だったんですね。昔は勿論そこにアザラシの皮とかをかけて、冬は草と根を付けたんでしょうね。想像できますか?各家に少なくて5人、多分10人位居たはずです。千年以上も前の何百人ものイヌイットの村。I found!20歳で大発見だったんですね。僕は変な子だったんですね。先生に、「I found the Thule culture village. Very old I think.」先生は、「5〜6軒?」、「もっと。」、「10軒?」、「もっと。」、「ウソよ。」と。それで私は地図を作って全部描いたんですね。それを僕が見せたら、先生はもう青くなったんですよね。ただもう感動して、感動して。あれだけのクジラが居たからね。そして、彼等は手銛で60トンのクジラが捕れたんだからね。

そしてその村の周りには、石で出来たイグルーの様なものが一杯あったの。肉を保存する所かなと思ったんだけど、これだったらすぐに白熊が壊すでしょう。1つだけ、もう千年以上経ってたけど蓋が生きてた。この蓋は平らな石で、その上に立つとコロンと中に落ちる。罠でした。狐用の罠。一つだけ狐の骨が入ってましたね。まだそれも発見されてなかったんです。

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