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C.W.ニコル講演「捕鯨調査と庄司船長の思い出」(7)
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それはシーズンの真ん中でした。そのディルドという小さな港では何も出来ないから、船を直す為にはSt.ジョーンズという港に行かなくちゃいけないんです。でもそれには別の船に引っ張ってもらわなくちゃいけない。ドイツの船がたまたま入ってて、その船長が「いいよ。」と快諾してくれました。ただそこはタイタニックが沈んだ荒海で氷もあるから、船と船のコミュニケーションがはっきりしてないと駄目だったんです。庄子船長と21人の日本人は自信がなかったんです。誰もドイツ語出来ない。ドイツ人の英語は凄く発音が強かったから、船長が僕に、「ニック、ドイツの船に乗れよ。それで無線で日本語に通訳して。」と。私がドイツの船に乗った時、ヒゲはぼさぼさで、おやじからもらった潜水艦用のポロセーターとジーンズ、ゴム靴と汚い帽子を着ていました。捕鯨船に乗るだけじゃなくて解体の調査もやってたから、いい香りしてたと思う。そうしたらドイツの船から「あなたこのキャビンに居なさい!キャビンから出るな!」と。
そして、夜になったら「You come to the bridge!」ブリッジに行くとオフィサーが「You will stand deck. Do not move, do not talk!」「OK」と。それで無線で、「チェーンをちょっと長くしてくれ。」とか「スピードをあと3ノット上げていいよ。」とか通訳したの。そうしたらthank youも何も言わないで、「You will go back to your cabin!」それで僕はキャビンに戻って、ウィスキーを少々。「And you will come now for food!」と言われて、クルーの所に行ったんですよ。そこでドイツ人のクルーが、「あんたはどうして日本の捕鯨船のクルーになったの?」「いや、俺クルーじゃないよ。俺はオブザーバー。政府の人間だよ。」って北極水産研究所の技官のカード見せたの。ドイツ人は政府となると背骨が真っ直ぐになるの。
その後、僕がキャビンで横になって本を読みながらウィスキーをちょっと飲んでたら、ドン、ドン、ドン!「You will come now different cabin!」それで、凄いいいキャビンになった。船長は怒って、「どうしてオフィサーだって言わないのか。」って。「捕鯨船の上では関係ないよ。船長が神様で後は皆平等だよ。」と。それで4日間かけて港に着いた。船が直るまですることないから遊びに行ったんです。海に面した友達の家に行ったら、丁度ししゃもが入ったと。もう波は80%は魚。20%が水。凄いししゃも。だから、僕はバケツを2つ借りて、ししゃもを一杯入れて、船の厨房にそれを持って行って、「魚、小魚。」と。ししゃもって日本語知らなかったんですね。17京丸はドックに入ってたけど電気は使えたから、皆船に泊まってたんです。私がコーヒーを飲んでいたら、コックさんが騒ぎ始めたんです。「ししゃもだー、ししゃもだー。」と。庄子さんも「ししゃもじゃないか、新鮮じゃないか、どうしたの?買ったの?」と。「ううん、手で獲った。」、「ウソだろう?」と。
丁度極洋捕鯨の専務が来てたんです。専務がししゃもを見て、僕を見て、「ニコル君、本当の話しを言ってよ。」と。ニューファンドランドでは、ししゃもは肥料に使ってるんですよ。スコップで獲って馬車に乗せてるんです。そうしたら船長が「専務にウソ言っちゃ駄目よ。冗談じゃないよ。」、「ウソじゃない!」ということで、タクシーを借りて行ったんですね。大量に上がってました。皆興奮した。でも残念だけど船は直りませんでした。そして今、ししゃもは獲れないです。ロシアとキューバとポーランドの船が沖で全部獲ったんです。ししゃもはほとんどない、タラもほとんどない。それで庄子船長は日本に帰って、とても憂鬱になってたらしいですね、ある日、下駄を履いて、シャツとジーンズのままで出かけて帰ってこなかったんです。どこに行ったか分からないんです。蒸発した。今でも分からない。
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