古山先生:
魔女みたいなおばあさんから香辛料の使い方を習ったんですか?おばあさんは料理上手だったんですか?
ニコルさん:
私は上手だっと思いますね。香辛料はよそから買うものですね。ハーブは庭か山から採る。ハーブはケルト人の漢方。薬です。特に野生の肉を使うときはハーブをよく使います。ハーブを沢山使わないと、消化がよくない。例えば、鹿の場合は、鹿が好むものを入れて焼くと消化しやすいとか、ウサギもそう。山菜みたいなものも採ってましたね。おばあさんは怖かったけど、手伝うと美味しいものくれるから、いつもおばあさんを手伝ってました。それで覚えました。
ニコルさん:
私は15歳位の時に、3ヶ月ほどフランスのボルドーの近くにホームステイしてたんです。月1回、英国人のグループで集まってツアーに行かなくちゃいけなかったんですよ。僕がそのツアーに参加した時に、シャトーイケムという、一番すごい白ワインのシャトーに行ったんです。スポットだから、バスから降りて写真を撮る。僕は15歳だからカメラを持ってないんですね。近くに立派なブナ林があって、そこで僕はリスを見てたんです。そうしたら、なんか皆、バスに逃げてる。見たら、遠くから大きな犬が30匹位走ってくるんです。でっかいのが。それで後ろから紳士が馬に乗ってさーっと来てた。僕は林から出て止まってたら、犬が来て「わん、わん、わん。」と、周りをわーっと取り囲んだんですね。僕は犬と一緒に育てられたから、犬は怖くないな。その紳士が来て、「犬は怖くないんですか?」と聞くから「犬は好きです。これは猟犬だから、人間に害を与えません。走ったら追いかけるかもしれないけど。」と言ったら、「君、面白い子だね。Vous etez Anglais?(英国人ですか?)」「Non.Mouseiur. Je suis pay de Galle.(いいえ。ウェールズ人です)」「Eh, vrais Gallois!(ああ、真のウエールズ人だね!)」それで、じゃあねと犬を呼んで去っていきました。鹿狩りをしてたんですね。それでシャトーに入ったら、最後に貴族の方が出てきて話をするんです。それが、その紳士でした。僕を見て、「君、おいで。一番いい酒を飲ませてあげる。こいつだけは勇気がある。」と。「アングロサクソンは駄目だ。」とか、「フランスとGalloisとか我々は優秀だ。」とか。先生方が悔しがってました。それで帰りに1本くれたよ。今買ったら4万円位するだろうな。家に帰ってホームステイ先のおやじにプレゼントしたら、すごく驚いてたね。
芳賀沼さん:
ニコルさんが小さい時に行ってたウェールズの森と、アファンの森と似ている所と違う所を教えて下さい。
ニコルさん:
僕が子供の頃に行ってた森は本当に小さい。我々のアファンよりもはるかに小さいね。ウェールズのアファンは裸の山から始まったんです。だんだんとその新しい森が増えて、貴族の大きな古い森もその中に入ったんです。最初10haで始まった新しい森は、今、3万haです。私が行った所も小さな古い森。ほとんどがオーク。あの当時1haあったかな。その位。でも子供にとっては大きかったな。中の木は、400年、500年、600年の木なんです。
尾立さん:
幼少の頃の時間は、人を形成する上で大切な時間なんだなということを、お話を聞いて改めて感じたんですが、甘やかされて育つのと、苦労をして育つのでは、大分違うんでしょうね。
ニコルさん:
母は私のことをベタ可愛がりだったんですよね。でもたまに怒って暴力をふるって、それで後でわーっと泣くとか、感情的だったんですよ。ウェールズの家庭はとっても温かかった。学校が冷たかった。それは私のせいもある。僕はアイヌに人たちの話を聞くと、全く同じだなと思いますね。沖縄もそう。明治の会津もそうよね。いじめられたから強いでっかい子が育つ。
山田さん:
僕も学校で働いているんですけれど、そこに、ニコル少年の様に変わった子が来たときに、どうしてあげたらいいんでしょうか。
ニコルさん:
まず学校の造り方ね。コンクリートの箱だと刑務所の様でしょう。学校の造り方、嫌ですね。それからやっぱり、何十人の子供達が居る授業は、ある程度厳しくやらないと駄目ですね。だから僕は先生になりたくないです。京都大学でちょっと教えてるけどね。大学生になるともう反発する力も失っていますから。
松木さんの様な先生もいいんじゃないかな。つまり子供達をもっと外に出して、色々な教育を外でもやればどうですか。ウェールズのアファンで、私はすごい授業を見ましたよ。大都会の子1クラスを2週間アファンに連れてくるんです。その時はレンジャーが先生。学校の先生はレンジャーの手伝いをします。打ち合わせはしてますよ。でも、授業は全部レンジャーがやります。
僕は数学が弱いんですよ。1+1は何?と。僕は1+1は1+1なんです。2にはならない僕の頭の中で。りんご1つとりんご1つ、これは2つのりんごになるけど、1つのりんごと1つのみかんだったら、2つにはならないんです。そういう子も居るんです。僕がいいなと思ったのは、数学の授業だったんですよ。30人の子供達に、「3人ずつの組を作りなさい。」と言うんです。それでレンジャー達が見てるんです。誰と組んでるか。学校の先生は知ってるけど、レンジャーは知らないから、誰と誰が仲いいかとか。誰がスポイルされてるかとか。そして、3人に棒を4つくれたんです。それから1m毎にマークされている10mの長さのロープと三角。そしてそれぞれの組に、100平方メートルを棒とロープと三角で図ってごらんと課題を出した。一番簡単なのは、10m,10mの四角を作ることでしょ。でも、棒が残ったらもっといいよと。つまり相手の棒を使っていいんですね。すぐにけんかになった。じゃあ、話し合って、3本、3本ずつ出し合うのはどうだと、子供からそういう話を出させたんです。10グループだから結局1ha図ったんですね。お互いにくっついて図った方がいいって分かったんですよ。その後で、あなたの100平方メートルに、木は何本ありますかという課題を与えた。「これは木ですか?」「これは木といっても、苗木ですね。それじゃあ木はあなたのお父さんの背の高さにしようよ。」と。「家のお父さんはちびだから・・。」と、すぐに笑いが始まって、「じゃあ2mにしよう。」と。そうやって数えていくと、この木とこの木は違うと分かるでしょ?これは白樺で、これは唐松。そうしたら、その木は分けて数えて下さいと。後でビジターセンターに戻って地図を作ったんですね。結局そのクラスは1haの森の環境アセスメントをやったんですね。何%唐松、何%はナラと。そうすると、さりげなく覚えているんですよ。俺は、こういう教え方だったら納得したんですね。
後は、小さな川に、ピンポン玉10個。その3人組で川の長さ100mを計って、10箇所で川の幅を計って、深さも何カ所かで計って、そしてレンジャーがヨーイドンと川に玉を置きましたね。そして、一人が走っていく、レンジャーも一緒に行って、最後のゴール地点にも先生が居たんですね。はい、1とか2とか、10個の玉が流れて行くでしょう?それの平均を取って、川の幅と深さと長さが分かると、どの位の水の量が流れているか分かるでしょう?その間はヤゴをみつけたり、色々な事がみつかったり、「えー!気持ち悪いこれ何?」とか、さりげなく生態系の事とかを教えてるんですね。いちいち「これは○○です」じゃなくて、子供が発見する。問題は水の流れ。その水でどの位の水の量になるとか、そういうことをやってたんですね。だから面白かったよ。それで、必ずクラスに戻って授業みたいな事をやったんです。あれは良かったな。
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